寝不足の若者を救え!? 米国で学校の始業時間を遅らせて830億ドルの経済効果?

ヘルスプレス/HEALTH PRESS

 「早寝・早起き・朝ご飯」という標語。新学期に学校で子どもたちに配布されたノートの表紙にもこの標語が書かれていて、子育てしていると目にする機会は非常に多い。ところが、中高生の<朝寝坊>を推奨するような提言を米国小児科学会(AAP)は行っている。
 「早起きは三文の徳」と同じように、英語にも「The early bird catches the worm」ということわざもある。洋の東西を問わず、早起きは美徳で、健康によく、成功もつかめると考えられている。こうした古くからのことわざに反する発表が行われた背景に、思春期の若者の睡眠不足があった。
 早起きは健康にいいのか、悪いのか......。中高生に必要な睡眠時間について今回は考えてみたい。
始業を午前8時30分以降にすれば830億ドルの利益
 学校の始業時間はまちまちで、日本ではだいたい午前8時30分から午前8時50分までの間に設定されている。ところがアメリカの場合、82%の学校が午前8時30分前に始業し、始業時間の平均は午前8時3分。
 そのアメリカで「中学校や高校の始業時間を午前8時30分以降に遅らせれば、10年以内に830億ドル(約8兆9640億円)の経済的な利益がもたらされる」と発表された。
 アメリカのシンクタンク「ランド研究所」によれば、始業時間が遅くなることで中高生の睡眠時間が増え、学業成績が向上し、仕事でも成功しやすくなるため、長期的に見て経済に好影響を与えることになるのだという。
 そして、米国小児科学会などの専門家団体は、思春期の若者の就寝や起床の生体リズムに合わせ、健康を保つのに必要な睡眠時間を確保するため、「中学や高校の始業時間を午前8時30分以降とすること」を推奨している。
 思春期は体も心も大人へと急激に変化する時期だ。睡眠に関わるホルモンのメラトニンについては、1日の中で分泌が始まる時間が思春期前よりも遅くなり、睡眠と覚醒のサイクルも遅くなるといわれている。
 このような体の変化に、学校の始業時間が合っていないために、深刻な睡眠不足が発生していると考えられている。中高生で望ましい睡眠時間は8~10時間とされているが、7時間未満の中高生が最大で60%に上るとの報告もある。
 思春期の若者の睡眠不足は、健康に悪影響を及ぼすだけではない。集中力の低下や学業成績の悪化をもたらし、さらには「自殺をしたい」という衝動が起こる可能性もあることが指摘されている。
中高生の睡眠時間が増えたことで経済効果が!
 ランド研究所は、中学や高校の始業時間を午前8時30分以降に遅らせ、中高生の睡眠時間が増えることによる経済的な影響について分析した。
 その結果、アメリカ47州の中学や高校の始業時間を午前8時30分以降に遅らせることで得られる経済的な利益は、2年後までに86億ドル(約9288億円)、15年後までに1400億ドル(約15兆1200億円)と推定された。
 始業時間の変更に伴いスクールバスの運行スケジュールの調整などに必要な費用は発生するが、期待できる経済効果は大きく、短期間で回収できるとしている。
 報告書の著者の1人は「長年にわたって、私たちは10代の子どもたちの睡眠の問題について公衆衛生上の課題として議論してきた。しかし、経済的な側面でも、この問題は極めて重要であることがわかった」と説明している。
平均睡眠時間の1時間アップで卒業率と進学率が上昇
 過去の研究では、平均睡眠時間が1時間長くなると、高校の卒業率が13.3%、大学への進学率が9.6%上昇すると推定されている。こうしたことは学生が就く職業や収入などにも影響を与える。
 加えて、自動車事故による死亡例の20%が運転手の睡眠不足や疲労に起因していたとするデータもあることから、ランド研究所は「若年者の自動車事故は、労働市場や経済にも影響を与える」と付け加えている。
 米国小児科学会によれば、思春期は人生で最も体内時計が夜型化する年代で、午後11時よりも前に寝て、午前8時よりも前に目覚めるのは難しいそうだ。
 我が家も子どもが中高生になったら、朝寝坊を「だらしない」「怠け者」と非難するより、体の仕組みだからと温かい目で見守るようにしよう――。
 とはいえ、子どもたちが夜更かししたり、スマホやゲームで夜間にブルーライトを浴びたりすることは、親として断固許さないのだが。
(文=森真希)

森真希(もり・まき)
医療・教育ジャーナリスト。大学卒業後、出版社に21年間勤務し、月刊誌編集者として医療・健康・教育の分野で多岐にわたって取材を行う。2015年に独立し、同テーマで執筆活動と情報発信を続けている。